嘉興―荒々しい大自然の驚異と貴族の風流を併せ持つ小都市

川の水は海へ向かって流れる。常識ですね。ところがここは中国、日本の常識が通用しない国です。今回は海水が川を逆流する驚異と神秘の街、浙江省嘉興(かこう)市をご紹介します。

嘉興市

嘉興は上海のすぐ隣にあり杭州方面の電車に乗ればわずか数分で到着します。上海の近くを流れる銭塘(せんとう)の河口に位置する小さな街です。

銭塘は対岸が霞んで見えるほど大きな川で、普段は絶えることのない穏やかな流れが中国の遥かな大地を思わせる立派な大河です。

しかし毎年旧暦八月の満月の日だけ何かの復讐と言わんばかりに突然海水が猛烈な勢いで銭塘に逆流してきます。

これが嘉興の海嘯(かいしょう)です。周辺の複雑な地形と大潮が銭塘へ向かう海流を形成するそうです。海嘯の力は凄まじく、河口の堤防を軽々と乗り越えて一面水浸しにしてしまいます。

日本人には想像もつかないような光景に圧倒されること確実です。地元民はギリギリまで近づいて水に打たれるのを楽しんでいますが、慣れない旅行者はくれぐれも安全に気をつけて離れたところから鑑賞してください。

なお同様の現象はアマゾン川でも見られるそうですが、地球の裏側のブラジルより嘉興の方が遥かに行きやすいですね。

まるで台風のような恐ろしい自然現象のお話をしましたが、嘉興には雅な一面もあります。

銭塘から少し離れたところにある南湖という湖は、杭州の太湖や蘇州の西湖のように雄大な景色を眺めて平和な時を過ごす名勝地です。

柳が垂れる湖岸に腰掛けて湖に浮かぶ船を眺める。なんと風流な景色でしょう。

ところでその湖に浮かぶ屋根付きの小さな木造船をよく見てください。南湖紅船という名前がついています。

ここでいう紅とは中国共産党のことで、南湖紅船は1921年に毛沢東らが第一回共産党全国代表大会を開き、中国共産党の成立を正式に発表した記念すべき船なのです。そのため南湖は革命発祥の地とされており、南湖紅船は別名革命記念船とも呼ばれています。

何かと怖いイメージがつきまとう中国共産党が、しかも非合法組織として地下活動を行っていた時代にまるで往時の貴族のような風雅を持ち合わせていたなんて少し意外ではないでしょうか。

ところで嘉興は嘉興粽子と呼ばれるちまきでも有名です。ちまきは国や地域によって形も味も全く異なります。例えば狭い台湾でも北と南では作り方が違いますし、日本のちまきに至っては甘いお菓子になっています。

粽

嘉興はもち米を三角形に詰めて茹で上げた中華ちまきの発祥地です。醤油漬けの豚肉や豆、煮卵を入れたものもあり、かなり濃い味付けなのに重たくはない絶妙の味加減です。多くの店が自慢のちまきの味を競い合っているので一個ずつ買って食べ比べてください。

嘉興は一見目立たない地方都市ですが、実は多くの側面を合わせ持つ魅力に溢れた街です。旅行や仕事で上海へお越しの際は、是非お隣の嘉興まで足を伸ばしてみてください。